土色 先日、奈良の室生寺を訪ねました。そこで、女人高野を象徴する五重の塔を見ました。

小ぶりで、日本人の繊細な感性に満ちた塔は、しびれる感動を与えてくれました。谷越えの大風で、杉の巨木が倒れ、無残に破損。奈良の宮大工が、祈りを込めて、平成の再建に成功。


その魂を削った苦労は、優美な屋根の線に余すことなく、表現されていました。この再建物語をテレビの番組で見て、興味を持ったのが室生寺参りの理由でした。



 この、テレビ番組の中で、宮大工は、五重の塔の再建が成功した喜びをとつとつと語り、最後に、この仕事を与えられたことに触れ、「幸せな出会いを感謝しています」と涙ぐんで合掌していました。


いま、私は、そうした嬉しい出会いのひとつをオンライン上で得ました。

たまたま陶芸のホームページを見て、鹿児島の萩原啓蔵先生のページにぶつかり、深夜まで、焼き物作りの苦労と喜びをつづった先生の文章をプリントアウトしました。陶芸を趣味とする関西の一企業人にとって、それは、肉声でもって教えを受けているような暖かさを感じました。



 同時に、萩原先生の労作である、 土色のぐい飲みをひとつ、お世話になっている知人の昇進祝いに買わせて頂きました。萩のいい井戸茶碗でよくお目にかかる「かいらぎ」が全体にかかった酒盃で、やはり陶芸が好きな知人も見ほれていました。その際、せっかくのぐい飲みだし、お祝いだからと、新潟の銘酒、「米百表」を添えました。


杯はよし、酒はよしで、後に深く感謝され、一生ものとして大事にしたい、といってくれました。




 かいらぎは、梅花皮と書き、刀剣の柄や鞘を巻く皮を意味しますが、陶芸では、器体と釉薬の縮みの差と焼成に不足から生まれると、教えられました。

それは、制御のほとんどできない釜の火の中で、まれに生まれる素晴らしい変化のようです。それを、萩原先生は新しい釉薬の発明と、焼き方の工夫で、生み出されたようです。それは、小さな酒盃ですが、かいらぎに覆われたさかずきは、ひたすらに挑戦を続けた作家の長い苦労の物語を語りかけてくるようでした。室生寺の五重の塔をつくり、再建した宮大工と同じように、日本のマイスターの心意気も感じました。私も、このかいらぎの酒盃との、幸せな出会いに、感謝申し上げます。

(兵庫県 Y様)



(店長)啓蔵は長年研究を重ねてこのカイラギ釉を作りあげました。
ですので、カイラギ作品をご覧頂き、その思いが伝わっただけでも、本当にうれしい、と言っております。本当にありがとうございました。
ご感想を頂くと、次の創作への意欲がますます高まるとも話しております。新しい作品ができましたらページなどでご紹介いたしますので、どうぞお時間のある折にお立ち寄りください。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

                     



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