数十年前、ある知人宅に伺った折の話です。

 床の間に飾られていた直径60cmくらいの大皿に、私は目を奪われしばし見とれてしまいました。
見るからに豪快で、黒と赤の色合いのコントラストが実にすばらしい作品なのです。
このように、見る人に感動を与える作品を創り出した作家は?と恐る恐る近づき、黙礼をして裏を返してみると、なんと私の作品ではありませんか!
本当びっくりし驚きました。
以前に差し上げたことを私はうかつにもすっかり忘れてしまって、自分の作品とは気が付かず感動していたのです。


その大皿を創った頃は、私にとって「創意工夫」の全盛期でした。がむしゃらに頑張っており、ひらめいたアイディアを即作品に実行していました。
 大皿の手法を説明すると・・

 素焼きされた大皿に真綿を引っ張りクモの巣状にします。その上から全体に黒マット釉をブラシ掛け(ブラシとブラシを合わせ前後に、こすってしぶきを飛ばす)をした後、次に真綿を取り除き、黄・橙・赤のマット釉を吹き付けるものです。

で言うのは簡単ですが、考え出した後、何回も失敗を重ね、ようやく出来たものでした。
このブラシ掛けの技法は今でも自分の発案した技法の中でも、誇れる技法のひとつです。
 今でも作品にかける燃える気持ちには変わりはありません。自分の中で研究や経験を積み重ね、斬新な納得のいく作品をつくるために、日々努力しているつもりです。

と同時に、今までに自分の残した作品を出会った時、それにもきらり輝くものがあった・・そんな発見ができるのも、また作家冥利につきると思ったのでした。