ぐい呑み、酒器、抹茶茶碗、湯のみ、片口鉢、作家 萩原啓蔵 の陶芸作品をご紹介しています。
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「 陶芸作品 」 に関する記事一覧


【酒器】土華 

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■土華

数年前にインターネットで偶然に『土華』を見つけ、以後啓蔵さんの世界に引き込まれました。

この度、念願の『土華』を手にすることが出来ました。

『土華』を実際に手にすると、その“力強さ”“迫力”“存在感”に圧倒させられます。
釉薬が融合した発色、土が流れたような模様、滴るような形、どれをとってもすばらしく、まさに釉薬が作り出した“芸術”
だと思います。

見る全ての角度において、いろいろな景色が感じられ、作品のほうからも何かを語ってくる様にも思います。
本当にすばらしく、持つことに喜びを感じる酒器(作品)の一つとなりました。

早々、冷酒を注ぎ一杯やりました。
片口酒器の利用は初めてですが、思っていたよりも器が軽く、手にしっくり馴染み、大変気に入っております。
大切に使わせていただきたいと思います。
啓蔵さん、有が田やさん本当にありがとうございます。
また、すばらしい作品を楽しみにしております。

(東京都 Y様)


(店長)土華のご感想をありがとうございました。(土華は、贈答用としてご注文頂くことが多いためなかなかご感想を頂く機会がございませんでした。)
土華は、かなり個性的な作品です。しかも、啓蔵がかなり気合を込めて作ったものですので、もう同じものが出ないかもしれません。それだけに、良さをわかって頂ける方に大切に使って頂けるのは本当にうれしく光栄なことだと感謝しております。

それから、重さについてはこちらにも書いてありますが、啓蔵なりのこだわりがあるのだと思います。
本当にありがとうございました。

【湯のみ】青霞

【湯のみ】青霞


手にとるとしっとりとなじむ感じもします。

釉薬をかけた時も自然の流れにまかせたような豪快さとかんにゅうの繊細さが合わさったような湯のみです。

【042】貫入(かんにゅう)釉とピンピン音

300p1010006期待に胸を躍らせる窯出し。

窯の蓋を開けると熱気が顔に吹きかかってきます。窯の中の作品が生き物のように”ピンピン”と音をたてています。
これは作品が冷たい外気に急に触れ、素地と釉薬の膨張の差が起きて貫入(かんにゅう)が出始めた時の音なのです。
窯出し後も、数日(長いときにはもっと)わたってその貫入音が続きます。初めて経験なさる方はびっくりされることと思います。

 薩摩焼、栗田焼、相馬焼など亀裂がはいっていますが、この亀裂釉、柚子肌釉、カイラギ虫喰い…等、釉薬によって特殊な紋様となります。欠点転じて美点となす、と言ったところでしょうか。

この亀裂、貫入を創り出すのには実は様々の工夫があります。
第一に縮まない土を使用する、第二に釉薬を厚掛けする、ことですが、実際には、私の体験から申し上げると「耐火性が大きく、収縮の少ない素地」「ソーダ長石を釉薬に使用する」という点がポイントになると思います。

 ちなみにカイラギ釉については、私自身も毎回苦労しています。幾度か試験焼を繰り返し確認していても、いざ本番(本焼)では結果は全滅という事もたびたびです。それだけに思い通りに焼けたときには最高の喜びを味わいますが次に「同じ釉薬を同じ条件」で焼成してもうまくいかず失敗する…この繰り返しです。そのたびに何故?原因は?と考え、いろいろと分析をしています。
そしてこれが私の一生涯の研究課題なのだ、とも思っています。

同時に、私の思いを込めた「カイラギ作品」を実際に購入したり使ってくださっているたくさんの方々からの感想は、本当に励みになります。
(いつもFAXで拝見しています。)

最後に今回は「陶芸初心者の方でも楽しめる亀裂釉」をご紹介しましょう。
家庭での使用済みの空ビンのガラス破片を使って皿に装飾を施す手法です。
ビール瓶の「茶」、酒ウィスキー瓶の「緑」「青」、その他の色のガラスを別々に割砕いておき、水平の皿に模様に合わせて置くだけです。
この場合、必ず「乳濁釉」をかけた上にガラスを置きます。
(ただし立体の作品の場合は流れるためにできません。)
1100度で溶けますので、普通の窯の下段でも綺麗に焼けます。一度、試験をしてみてはいかがでしょうか。






【尺皿】漆黒の海

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黒地に白い波しぶきのような豪快なカイラギ。重厚な尺皿です。
料理をのせる皿というよりもできれば「飾り皿」としてお使い頂けたらと思います。
景色の良い大皿を作ってみたい、という思いがありました。 力強い作品にしあがったと思います。

※景色とは:器をみたときの印象。現れた窯変(ようへん)や釉薬(ゆうやく)によって描かれる全体像。




・ 啓蔵が「陶芸家雑感」でこの作品に使われている「ユズ黒釉」ついて記しています。




【酒器】土華

【酒器】土華
側面にぼこっぼこっと穴があいているように見えるところがあるでしょう。これを「虫くい」と言います。

釉薬が共に剥がれて下の胎土があらわになった、まるで虫に食われたような痕です。

これはなかなか出ない、けれども昔から陶器が好きな方にはこよなく愛されてきたものです。



 【酒器】土華 古(いにしえ)の茶人、そして陶器がお好きな方は器の見た目のことを「景色」と呼びます。

単なる「紋様」としてではなく、そこに「芸術」として「風景がひろがるような」イメージをとても大事にしていたからでしょう。

この、土華も、器としての「景色」もすばらしく、味があります。


 【酒器】土華


そして「のぎめ(粘性のある釉薬の流れたあと)」も趣き深いです。

のぎめの下にもきちんと柚子肌があります。
手間をかけて、何層にもいろいろな釉薬がかけられていることがわかると思います。









【039】踏まれても、根強くしのべ道芝の

「踏まれても、根強くしのべ道芝の、やがて花咲く春のくるらん」
こんな詩の一部を昔中学生の頃に覚えた記憶があります。

 今朝、窯出しをしてみて予想外の不出来にがっかりしてしまいました。ためいき混じりに上記の詩を口づさみ自分自身を慰めているところです。
何十年この道一筋に自分の求めている釉薬作りを目指していてもこの様に失敗の繰り返しです。
試験焼きには満足するもののいざ本番となるとなかなか思い通りにいかないものです。これでもかこれでもかと挑戦しているというのに。

けれども「好きこそものの上手なれ」と、すぐに「その過程を楽しむ」ように気持ちを切り換えるようにしています。「飽きもせず夢中になれること」があるのは、大変ですが逆に幸せなことかもしれません。
冷静に今回の失敗の原因を手繰ってみるとやはりありました。

バケツの中の釉薬の量が少なかったために、同じような配合の別の釉薬を追加で混ぜ合わせたことです。ちょっと考えただけでは信じられない微妙な加減が影響するのですね。
年末を控え、早くいい作品を仕上げたいと焦る気持ちがそういう結果を招いたのかもしれません。

釉薬は本当に面白いもので奥が深いと感じます。それだけに魅力的でもあります。
今回不出来だったとしても何回も配合を変えて「いつかきっといいもの」
を作り出してみせる。これからも試行錯誤をくりかえしながら、頑張りたいと思っています。

【037】 「ユズ黒釉」と「ブルーの釉」

 寒い冬は作陶する人にとって水が冷たくいやですが、また同じくこの夏の暑さもいやなものですね。

 今朝は偶然午前2時に目が覚めましたので真夜中に仕事を始めましたが、朝の6時ごろまでに平常の1日分の仕事が効率よく出来ました。
静寂な仕事場での作業はちょっと寂しい気分にもなりますが、昼間の暑さから解放され涼しさの中で仕事に集中できることが何よりです。暑い時期は無理をしないで夜行性動物になることも必要かなーと思いました。

 作陶(物作り)というのは「集中力」がないとなかなかいい作品ができません。雑念を払拭してロクロに向かい手を動かすことが肝要です。今朝の真夜中の作業はそういった意味でもそれなりの成果が得られたような気がします。


直径が約30cmの大皿
 

現在、できあがり直径が約30cmの大皿を作陶しています。

かける釉薬は今回考え出した「ユズ黒釉」に「ブルーの釉」の深い味わいのコントラストに仕上げたいと頭の中でその焼き上がりを思い描いています。
「ユズ黒釉」というのは、見た目には表面がざらざらに見えますが、実際は肌触りがとても滑らかで格調高い釉薬のひとつです。

またカイラギ釉と同系統のもので、材料は鹿児島県に産するものを使います。
作陶にあたっては、できるだけ地元の資源を活用して今後もいい作品を目指していきたいと思っています。


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「かごしま県民交流センター」2Fロビーに啓蔵作品の「壷」が展示されています。


【036】シラスと釉薬

シラス 釉薬  火山の噴出物が数千年にわたり風化したのがシラスで鹿児島県の半分はそのシラスによって覆われています。

無尽蔵の火山噴出物を利用していろいろな物が作り出され未利用資源が次々と新しい商品に生まれ変わりつつあります。
特にシラスに含まれるシラスバルーン物質が研磨剤として広く使われ油よごれの磨き粉から日本が誇る光学レンズの研磨まで一役買っているのです。
そればかりか水に浮くセメント製品建築用の外装-塗料 人工宝石等々….研究が進んで陶芸でも釉薬を作るのにシラスを利用しております。
カイラギ、ユズ肌釉は勿論のことどんな色釉でも作り出せます。比重が軽くキメが細かくシラス単品でも釉薬に利用でき使い易いのが何よりです。

一例をあげますと
乳濁釉は 「長石30+土灰30+ワラ灰40」 が基本ですが 
シラス乳濁釉は 「シラス30+土灰20+ワラ灰40+骨灰10」 が良好です。

何故骨灰を入れるかというと、シラスの中に微量の黒浜(砂鉄)が入っているのでそのまま焼くと(1240度~1250度)黄味を帯びますが骨灰を入れることによってピンク色に発色させることができます。(ツヤ有り)

ツヤ消し釉の場合は 「シラス30+土灰30+カオリン30+硅石10」 で良いのですがより白く乳濁させたい場合には「亜鉛華」または「ジルコンチタン」などを4%くらい入れます。

溶材として「バリューム」「マグネシア」「亜鉛華」「石灰」等を変えることで発色が違ってきます。
釉薬の研究で試作品を作って比較しながら良いものを見つけ出している試行錯誤の毎日です。大変な作業ではありますが、新しい発見をするために没頭することは、充実した時間でもあります。
現在、めずらしい釉、カイラギ、虫喰い、ユズ肌等、納得できるサンプルは30種類ほどになりました。いつかこの釉薬を使った作品を発表したいと考えております。

乳濁釉虫喰い


【034】ある生徒のお話

 Yさんは私の陶芸教室に車で1時間40分もかけて通ってくる女性です。
毎週水曜日と土曜日の午前9時から夕方5時まで1回も欠かすことなく通ってもう2年近くになります。
冬は寒くて大変でしょう、との問いに「車の中は暖房がきいているし、きょうも1日がんばるぞ、とカラオケテープに合わせて歌っている間に、いつの間にか着いている。」と全然苦にならないようです。
現在ご主人と二人暮らしで、陶芸窯やその他道具一式も揃えているのですが年4,5回開催される陶芸展出品用の大型作品の創作、釉薬の勉強、をしたいとの理由でわざわざ指導を受けにきています。

 Yさんが当教室に見えるようになって指導する側の私も教えられることが多くなりました。
それはご本人が草月流の華道を学んでいるからでしょうか、一般的な作品ではなく「自分の表現したい」という思いを込めた総じて変形のつぼの発想がおもしろいのです。
ただし大型作品になりますとどうしても重力が加わり、デザインと同時に作品自体の重量バランスをとるのがが大変難しくなります。従って私にとっても(デザインを生かしつつ)「形をいかに整えるか」ということを研究するいい勉強になる、と感じています。

 Yさんをはじめ大型作品を制作する生徒にいつも厳しく指導していることを何点かお教えしましょう。

● 粘土の厚さは10~12mmに削ること
 大型で厚みがあると、重すぎて釉かけ後の窯詰め等が困難になり結果的に思ったような作品が焼けなくなります。
 そのために、仕上がりの厚みを12mm以下にすることを厳しく言っております。
 ※手にする器は「軽くしあげること」これは鉄則だと思います。
 例えば「抹茶碗」であれば、350g以下にすることと指導しています。
 それでは、どうすれば12mm以下の厚さにできるか?
 私は「針を割り箸に10mmや12mm分突起させ接着した」オリジナルの道具を作っております。
 それを実際作った作品の側面から突き刺します。
 つまりそれで「裏側から指先に針先がちょうど触れる」厚さが10mmや12mmとなる訳です。
 生徒によっては穴があくことを心配する人もいますが、素焼き後釉薬をかければ穴は埋まってしまいます。

● 日ごろから、表面の装飾を施すための紋様のアイディアを考えておくこと

● 自分の作品にかけた釉薬の種類、その時の焼き上がりの「出来、不出来」をきちんと記録すること
 
● 釉薬の作り方をしっかり頭に入れて覚えこむ努力をすること
 私が教えた釉薬の分量は、いちいちノートを見ないで、頭にたたきこむ努力をして欲しいと思います。
それこそカラオケを覚えるような感覚で日々そらんじていれば、自然に覚えるでしょう。
「伝統をふまえ新しい感覚の美しい作品をつくる」それが私の理想です。
そのために、陶芸教室では厳しいことも言いながら指導しています。
けれども、いつか陶芸展で大賞の授かることを夢見ながら、これからも頑張って熱心に勉強して欲しいと思っています。


【027】病院の薬と陶芸の釉薬

 一日中作陶を続けていると運動不足になり便秘がちになります。

 先日病院でももらった便秘薬が「酸化マグネシア」でした。この薬は陶芸の釉薬でも使用され、黒色、紺色、紫色のマット(ツヤ消)釉の媒溶剤として混合すると綺麗な色が作れます。
またレントゲンを写す時に飲む「バリウム」も、緑色を作る時に石灰と合わせて使用すると黄緑色のきれいな色彩が得られます。同じく、皮膚病の塗り薬として使われる「亜鉛華」も空色の釉薬を作る時に必要な材料なのです。

 そして釉薬の元になる長石を溶かす時に木灰、石灰、酸化マグネシア、酸化バリウム、塗り薬に使う亜鉛華、などを単味にまたは2,3種類混合することでいい釉薬を作ることができます。
普段私たちが何気なく飲んでいる薬が釉薬として使用できるなんて、面白いものですね。

 私は、いろいろなものに興味をもって常にアンテナをはりめぐらせる…ことが大切だと思います。例えば病院の薬をもらう時に、薬品名に気をつけて見るというのも新しい発見の糸口になるかもしれません。
こうして色々な材料を使って試行錯誤しながら日夜努力して各人なりの釉薬を作るべきだと思います。
「人に教えてもらおう。説明して欲しい。」とか「(誰かが作った)釉薬を使わせてもらおう。」と簡単に考える前に、自分だけの釉薬を作り出すよう、がんばってみてください。

【026】陶芸展出品をめざすみなさんへ

 春の陶芸展が近づいてきました。
 出品者の皆さん、準備はできたでしょうか?
春の出品物の多くは、冬に創作することになりますが、正月ボケ、寒波襲来転勤等が重なり、出品準備がなかなか思うように進まないものです。

 出品を考えるのでしたら、前年の陶芸展などを見て感動の冷めやらぬうちに作陶を始めるのがベストでしょう。
出品の期限が迫ってきては気ばかりあせり、手は進まず寒さと共に失敗をくりかえします。

 時間的にも気持ちにも余裕を持ってぜひ臨んでください。
五感のリズムが自然に動き出した時に生み出される作品には、勢いがあるはずです。
それから入賞することよりも、新しいアイディアと創造力豊かな作品をめざしてください。それこそが、きっと多くの方々に感動をしてもらえる作品になるはずです。がんばってください。

【024】陶芸を始める季節

 陶芸を始める方は、春から夏にかけて・・・というのが一番やり易いと思います。

冬は粘土が冷たくて乾きにくく、作品を作っても夜間に冷えるので何らかの方法で温めておかないといけません。もし凍らしてしまうと太陽が昇る頃にはせっかくの作品もくずれてしまいます。
特に大型の作品となると夜間の保護が大切で電気毛布で囲ったり、コタツの弱熱で暖めたりします。

 粘土は摂氏18度前後であればバクテリアの繁殖が旺盛で粘り気もよく作り易いのですが気温が下がると粘土のバクテリアが死滅して作りにくくなります。
数年前の話ですが、運び込まれた粘土を土間の上に置き、凍らせないように毛布を掛けておき、春になってその粘土を取り出したところ、冬の間かぶせてあった毛布がボロボロになっていたことがあります。
その時、バクテリアのすごさを実感しました。温度と湿度があればバクテリアの繁殖も盛んになるのです。

 春に開催される陶芸展に出品される場合には12月中の気温がさがらないうちに素焼きを済ませる心構えが必要です。1月や2月に作り出しては、遅れをとりあせるばかりで良いものは作れません。
やはり何をするにも「早め早めの取り掛かりと、準備を怠らないこと」が必要ということです。

【022】出品の意義

中央地方を問わず、秋の美展が開かれており、すばらしい作品が私たちの目を楽しませてくれます。
家庭に飾るには大きすぎないか?例えば100号~200号(1号:はがき大)の絵画や、50cm各の大壷を出品する場合によく聞かれます。
これらは、美術展出品用として制作したもので、家庭に飾るとか売り物として作ったものではありません。

 出品された作品は、美術展という大舞台でこれまでの努力成果を競う訳ですから、華やかな衣装を着け、おおきなステージでも映えるような化粧をして、審査に合格できるよう、一生懸命作るのです。
つまり、通常の制作とは違った形で「自己表現」「自己アピール」をする必要があると思います。

 陶芸に関しては、審査の対象として「造形美」と「装飾美」があり、常に新しい感覚で創作しているか?ということがポイントとなります。
私は、かねがね生徒のみなさんには「他人に作れない作品を自分自身の発想で創作し、そして新しい発見をして欲しい。」と申しています。
もちろん、陶芸はする目的は、人それぞれに違うと思います。趣味程度で楽しむのもよいかと思います。
ただ、少なくとも私は生徒さんには、ある程度の技術を習得したら、厳しい道であっても挑戦することに意義を見出して欲しいと指導をしています。

 それにしても1年に数回ある美展のため、売れもしない大作を10個20個と作るなんて…とおっしゃる方もいるかもしれません。
けれど、夢を持ってひたすら作りつづけ、自分なりの発想と表現にウデを磨くことは、すばらしいことではないでしょうか。
それは、陶芸に関心のない人にとっては、おかしく感じられることかもしれませんが本当に夢に突き進んでいる当事者にとっては、毎日の創作や、この充実した日々は、何物にも変えがたいものなのです。

【020】岩石粉の漂白

  綿布や動物の皮を漂白することはごく当たり前に行われていますが、岩石の粉を漂白することは余り聞きません。

 しかし陶芸の世界では自然の岩石の粉末をなんとか満足できる色彩に仕上げるために、試行錯誤をくりかえしている現状です。
 工業的には鉄分を磁石で除去する方法と、もしくは強酸で洗浄して石灰で中和する方法が用いられています。
ただし、強酸を使用したあとの岩粉は残念ながら陶芸材料としては適合しなくなります。

 先般、カイラギ釉を作り出したときにも岩石粉の漂白に大変苦労しました。
黒い石粉を白くするのに#80、#100、#120の目の篩(ふるい)でふるっても焼き上がりはダークグリーンとなってしまいます。
それでも当初は満足していましたが、そのうち、もっと白い色にできないものかと思いつづけた結果、遂に、漂白することを発見できたのです。 
淡い卵色に発色するカイラギ。お茶のうつりもよく、満足しているところです。

【019】釉薬の原料探し

 先日、雨の日の夕方、かねてから目をつけていた砕石場に行くと、側溝から赤色の濁った水が流れていました。
 流れに沿って登っていくと「立入禁止」になっていましたので、とりあえず水溜りの赤い泥水をビニール袋に入れて持ち帰りました。
漉網(こしあみ)を通して沈殿させ長石と半々の分量で混ぜて釉薬を作り、試験的に焼いてみたところ、予想以上の出来ばえに感激しました。

 この石粉を基礎に「マグネシウム」「バリウム」「骨灰」「亜鉛華」などの培養剤を加え、配合を変えてみると7~8種類もの違った釉薬ができることがわかりました。
 今まで1つの種類の原料で、これほどバリエーション豊かな色が出せるものはありませんでした。
それだけに、良い材料との出会い、探し出せたことは、陶芸をするものにとっては、最高の喜びです。

 後日2tトラックで微石砕だけを求め保存していますが、原料に余裕があると日々の研究・実験が楽しくてしかたありません。
自分だけのオリジナル釉薬をつくり出すこと、そしてそれをもっと極めたい気持ちでいっぱいです。と同時に、正直な気持ちを申し上げると、当分誰にもこの「原料の場所」を教えたくありません。
でもこれが本当の気持ちではないかとも思います。

【018】カイラギ釉について

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(前回に引き続き、カイラギ釉について)
 新しい釉薬を作るには、自分の研究意欲を持ちつづけるだけでなく、努力や手間を惜しまないことだと思っています。また同時に、私を支えて協力してくれる、家族、友人、知人のおかげだと感謝しております。
 
 私は地元のさまざまな土石(珪藻土)を捜し求めて「カイラギ釉」の研究を続けております。それは自然の恵みを受けられる地方だからこそできることなのかもしれません。
 とは言うものの、原料の土石(珪藻土:けいそうど)を探し出した後、険しい山の斜面を登り下りして掘り出し、しかもそれを担いで車のある場所まで運んでくるのも一苦労です。
しかも、採集した土石を粉砕して、さらに何度も篩(ふるい)をかけて釉薬を精製していくまでの間に原料は半減してしまいます。
また、せっかく作ったバケツ一杯の釉薬を丸ごと捨てることも往往にしてあります。このように難儀して作った釉薬がいつもうまくできるとは限りません。日々、失敗とやり直しの繰り返しの毎日なのです。

 けれども
「カイラギを作りたい。2001年までに完成させたい。」
という思いや目標が、私を支えてくれたような気がします。
現在、5,6種類の「カイラギ釉」ができ、ほぼ確実に「カイラギ」を再現できるまでになってきました。
今後も研究を重ね現在の釉を基本にして、あと5,6種類くらい「変わったカイラギ釉」を生み出すことが次の目標であり夢です。
 ここ鹿児島県の古い窯元には、天目・ソバ釉・柿釉・アメ釉・イラホ・黒釉・ドンコ・ダカツ釉・・といった特殊なすばらしい釉薬があります。
けれども私は、まだ誰も手がけていない「カイラギ釉」にこだわり、作り出し続けたいと思っています。

【017】カイラギ抹茶茶碗

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カイラギとは「梅華皮」とも書き、釉のちぢれのことをこう呼びます。
ホームページでも説明してありますが、収縮しにくい粘土を使い、それで素焼きしたあとに、一番収縮しやすい釉薬を使って1250度で焼き、両者の収縮度の違いを利用してこまかい「ひび割れ」が出たもののことを言います。


 カイラギに使う釉薬は、当地で産出される珪藻土を主原料にして、単味(一種類の意味)または二種類以上を混ぜ合わせて作り、発色させるのですが、これを確実に再現するために、これまでさまざまな研究をしてきました。
 山頂から海辺までいろいろな場所にある珪藻土を掘り出してシラスと混合して実験してみると、面白いことに、産出する場所の違い、また、土をふるいわける時の「篩(ふるい)」のメッシュ(目の粗さ、細かさ)によっても、大きく発色が変化することを発見しました。

 また、窯の中に置く位置(つまり温度差)によって、釉薬の「縮れ」や「はがれ」に大きく影響する事も、数年来の実験から発見したことです。
山の上から採取した土は窯の上部、海辺の土は下部に置いた方が、結果がよいようです。
 このように少しずつながら、細かい積み重ねによって、序序にわかってくることが多くこれからますます実験の繰り返しが面白くなるような気がします。
 新しい時代、私なりの研究・実験、そして創作・作陶を意欲的に続け『大事に持っていたい器』を生み出していくのが目標です。そしてそこに喜びや生きがいを見つけ「生涯現役」の日々を過ごしたいと思います。

【009】しぶきの大皿

 数十年前、ある知人宅に伺った折の話です。

 床の間に飾られていた直径60cmくらいの大皿に、私は目を奪われしばし見とれてしまいました。
見るからに豪快で、黒と赤の色合いのコントラストが実にすばらしい作品なのです。
このように、見る人に感動を与える作品を創り出した作家は?と恐る恐る近づき、黙礼をして裏を返してみると、なんと私の作品ではありませんか!
本当びっくりし驚きました。
以前に差し上げたことを私はうかつにもすっかり忘れてしまって、自分の作品とは気が付かず感動していたのです。


その大皿を創った頃は、私にとって「創意工夫」の全盛期でした。がむしゃらに頑張っており、ひらめいたアイディアを即作品に実行していました。
 大皿の手法を説明すると・・

 素焼きされた大皿に真綿を引っ張りクモの巣状にします。その上から全体に黒マット釉をブラシ掛け(ブラシとブラシを合わせ前後に、こすってしぶきを飛ばす)をした後、次に真綿を取り除き、黄・橙・赤のマット釉を吹き付けるものです。

で言うのは簡単ですが、考え出した後、何回も失敗を重ね、ようやく出来たものでした。
このブラシ掛けの技法は今でも自分の発案した技法の中でも、誇れる技法のひとつです。
 今でも作品にかける燃える気持ちには変わりはありません。自分の中で研究や経験を積み重ね、斬新な納得のいく作品をつくるために、日々努力しているつもりです。

と同時に、今までに自分の残した作品を出会った時、それにもきらり輝くものがあった・・そんな発見ができるのも、また作家冥利につきると思ったのでした。







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