釉薬の研究のためのサンプル皿
啓蔵が、釉薬の確認のために作ったサンプル皿。ひとつひとつ魅力的。 – from Instagram
啓蔵が、釉薬の確認のために作ったサンプル皿。ひとつひとつ魅力的。 – from Instagram
啓蔵がオリジナルの釉薬の研究のために、試験サンプルとして作った皿をこれまでにもご紹介してきました。
今回ご紹介する釉薬サンプルの皿は、とっておきの釉薬です。
実はこの釉薬のサンプルを初めて見たとき、既視感のようなものを感じました。
いつかご紹介しよう、と思いつつずいぶん遅くなってしまいましたが..。
音楽を聴いたとき、人それぞれに感じ方は違うことでしょう。
私の場合は、すばらしい演奏を聴いたとき、目の前に色彩が広がるような気がします。
既視感と書きましたが、この釉薬の色の変化の印象が、ある若手ピアニストの演奏と重なったからでしょうか。
そしてこの夏、実際に彼の演奏を生で聴き確信しました。
苦悩の表現を音にのせて、深く心に沁みるようなピアノの演奏。そこここに広がる演奏家が醸し出す色彩。
何度もこの釉薬の発色のイメージを思い浮かべました。
小さなモチーフを繋いでひとつの作品を作り上げる。それは音楽であっても、陶芸であっても、なにか通ずるところがあるような気がします。
ぐい呑み 紬紋釉
個人的な好みですが、今回の画像(正面中央)のように
「ぽちょんと釉薬がかかっている」
ものが、実は、特に好みです。
「たまたま」だと思うのですが、作品の中で、この「ぽちょんとした釉薬」のものを特に愛おしく思ってしまうのはなぜでしょうか。
でも不思議な魅力があるのですよね。
以前、まったく違う作品(その作品は販売終了となりましたが)ですが、ある購入をご希望される方が、
「画像写真で、底の方に、ぽつんと白い釉薬が少しかかっているもの」
をと、わざわざご指定されたことがあります。
その時、同じ好みの方がいらっしゃる、と少し驚いたのですが、もしかすると、意外と多いのかもしれません。
なにか心を掴まれてしまう魅力。
本日撮影した作品は、紬紋釉の中でも、灰色がかかった白い釉薬部分の掛かりが多いものです。
カイラギの部分、そして白い釉薬の取り合わせは、まるで岩山の残雪の風景のよう。
「紬紋釉」には、いろいろな景色(釉薬の掛かり方によって見た目が違います。)があります。
必ずご希望に沿えるとはお約束できかねますが、ご注文される際には、写真(上から何番目等)をご指定頂ければ幸いです。
余談ですが、本日、「紬紋釉」の作品をいろいろと撮影している時に、ちょうどラジオからラフマニノフの交響曲が流れていました。
ラフマニノフの重厚でエネルギーに満ち溢れた交響曲と「紬紋釉」のイメージが、なんと似合うこと!びっくりしました。
ぐい呑みを手にしながら、音楽に浸り、作品に浸り…撮影する者だけが許される至福の時間かもしれません。
そういう気持ちを含めて、作品の素晴らしさをお伝えしていけたら…と感じました。
それにしても、ぐい呑み作品は奥が深いです。
同じ釉薬の作品でもひとつひとつ景色が違います。何度撮影しても、まだまだ撮影し切れていなような気になります。
これからも少しずつでもご紹介していきたいと思っています。
コントラストが美しく、水墨画の様でもあり まるで自然の中から生まれたてのような感じがして…生きてるようです。感動です!(K様)
「 重ねて釉薬をかけるむずかしさ 」
陶芸家萩原啓蔵の陶芸エッセイの中からご紹介します。
何種類もの釉薬を重ねるのはとても難しいとのことです。
陶芸家の工夫や苦悩や失敗を経て、美しい個性的な作品美を形成するのだ、ということをあらためて感じます。
啓蔵の新作 ぐい呑み 「啓蔵虫食い」
乳濁釉虫喰い
啓蔵は、釉薬研究も大変熱心な作家ですが、なかでも、鹿児島のシラス(火山灰)を使った乳濁釉は、すばらしいものがあります。
この作品は、青色を帯びた乳濁色の釉薬が、ところどころ豪快にはがれおち、虫喰いをつくりながら「景色」を生み出しています。
作品からエネルギーが沸いてくるようにも見えます。
啓蔵虫食いぐい呑み 天の川
虫食いが美しいぐい呑みです。
現在、新しいぐい呑みに取り組んでおります。
たっぷりもったりとした釉薬がかかったぐい呑みは温かい感じを受けますしそれが自分らしい作品だと思っています。
どこにもない、啓蔵らしい独創的な作品を作る、それが私の目標でもあります。
ですが、これまでにも何度か書いているように、長い経験をしても、なかなか思うような色が出ません。いや、うまくいくほうが少ないかもしれません。
今、新しいぐい呑みとして挑戦しているのは「碧がかかった黒色の地に、乳濁などの3種類の釉薬を重ねがけをする」作品です。
例えば三種類の釉薬を重ねがけをして発色を得るためには、単に三種類の釉薬を使うだけではうまくいきません。下地の釉薬に直接目的の釉薬をかけると、釉薬同士が混ざり合ってしまい、きれいな発色を得ることが出来なくなるからです。
ですので下地の釉薬と発色させる釉薬の間にそれぞれ別の釉薬をかけていきます。
しかしながら、それぞれ釉薬同士の相性がある上に、釉薬の中にはカイラギを消してしまうものもあるためになかなか簡単にはいきません。
それでも黒と白のはっきりとしたコントラストに加えて、微妙な色を表現してみたい、と思っています。
いつになるかわかりませんが、会心の作をお届けすることができたらと思います。
*2012/07 追記
啓蔵の会心のぐい呑み
啓蔵の新作 ぐい呑み 「啓蔵虫食い」
幾重にもかさなった青の釉薬。
陶芸家 萩原啓蔵からのこの作品「宇宙」に対するメッセージはこちらです。
釉薬のつき具合をみているところ
たっぷりと幾重にも釉薬をかけ、重なった色合いの発色が出た作品は、深みと変化を味わえると思います。
『啓蔵虫喰いぐい呑み 宇宙』
は、特に、釉薬を重ねた中でも、技術的に難易度が高いものでしたが思いどおりに発色した作品です。(注1)
この「釉薬を重ねてかける」というのは、大変手間がかかります。
1度目の釉薬をかけ、それを完璧に乾かしてから2度目に違う種類の釉薬をかけます。そして、それもまた完璧に乾かして、やっと3度目の釉薬となります。
なによりも「完璧に乾かした上で」次の釉薬をかけませんと、窯で焼成後取り出してみると、どろどろになって水ぶくれができたり、はがれたり(欠落したり)してしまうのです。
同時に、性質の違った釉薬をたっぷりと、しかも厚く重ねるというのは、大変むずかしい作業でもあります。
けれども、たっぷりと釉薬をかけるからこそ「虫喰い(注2)」ができ、複数の種類の釉薬を重ねてかけてあるからこそ「深い発色」が出るのです。
私自身、これまで何度も失敗を繰り返しながらも、「私なりの美」を求めて試行錯誤をしてきました。
それだけに納得のできる作品ができると、本当に達成感があります。
そして、実際に作品を手にとっての(お買い上げ頂いたお客様から)感想を読むと、作家として本当にうれしく、感謝の気持ちでいっぱいになります。
私のこの雑感をご覧になっているのは、(作品を)買って頂いた方だけではなく、陶芸に興味のある方、陶芸を勉強されている方も多いことでしょう。
もしも、そのような方々の参考になるのであれば、と思い、実際に失敗した作品(釉薬が欠落したものなど)をお分けします。
どんな感じになるのかなっているのかを実際に観察するだけでも、今後の陶芸や陶芸作品鑑賞に、なにかしらヒントになれば幸いです。
(注1)この作品は現在、販売終了。
(注2)ぼこっぼこっとあいた穴のこと
「宇宙」で使っている釉薬は、鹿児島のシラスをベースにしています。
また、青色の微妙な発色や変化を出すために、配合を変えた釉薬を3種類を使っています。
用意した釉薬は3回にわけてかけるのですが、1種類目の釉薬をかけた後、まる一日くらいかけてしっかり乾かし、そして次の釉薬をかけ、またしっかり乾かして、最後の釉薬をかける、作業をします。
この丁寧な作業が、深みのある発色を生み出すもとでもあります。
ところが、釉薬は(特に冬場は)なかなかしっかり乾きにくい、というのが難点です。
乾かすのが不十分だと、はがれおちてしまいます。
また発色のイメージを考えながら釉薬をかけても、窯出しするまではどんなふうに発色するのか、虫喰いができるのか、わかりません。
でもこの「宇宙」は窯から出した瞬間に「手ごたえ」を感じました。
深みのある青、そんな色を出せたことに非常に満足しています。
昨年は野口さんのスペースシャトルで宇宙へ行きましたが、その時の「宇宙」を思い描いた作品です。
実は今、私も「宇宙」を手にとりながら話をしています。
この同じ「宇宙」を実際に手にとってご覧になった皆さんは、この「青」と「虫喰い」の肌をどんな風に感じるのだろう?と思います。
作家の思いが伝わるとうれしいのだが…とも思います。
私自身、何回も作品を眺めながらあらためて釉薬のパワーのようなものや発色の不思議を感じています。
先般 色ガラス破片を用いて装飾することを説明しましたが、この技法は平面に利用できても立体には施行しにくいものです。
そこでガラス粉を用いた釉薬として立体にも応用できる釉薬の作り方を説明いたしましょう。
この方法は今までの色ガラス破片を用いるだけでなく、カイラギ釉の基本にもなる釉薬の作り方です。
先ずガラス破片を粉末にする必要がありそのガラスの粉を長石を準備します。
材料店でガラス粉、ビーズ粉としての商品も販売されていますのでそれを利用してもよいでしょう。
基本となる長石には、ソーダ長石やカリ長石があります。
釜戸長石、対州長石、益田長石などはソーダ長石と呼ばれ貫入釉、カイラギ釉、柚肌釉、虫喰い釉などに用いられます。
準備した材料を、長石90:ガラス粉10の割合で60メッシュのふるいにかけフノリやCMC、またはデキストリンなどの糊と混ぜ合わせ、中華なべの中で粉がねばりのある状態になるまで幾度も練り合わせます。それを素焼きの試験品に塗ることによって釉薬の硬さが体得できます。
硬くて塗りにくい、また、やわらかくても駄目です。
これを杓がけして乾燥するのを待ちます。
着色したい場合には、色釉を塗ります。上掛釉にも貫入、カイラギ、虫喰い釉、それぞれに相性のいい釉薬があり、それで出来具合が決まります。
先ずなんどか試験をして、失敗を繰り返しながらも基礎を磨いてください。
これがカイラギ釉を作り出す原点にもなります。
10年ほど前になりますが20~30キロ離れた隣町から50ccのオートバイで当方を尋ねてみえたのがK老人です。
公民館で陶芸を勉強しているが使える釉薬が透明釉と黒色釉の2色しかないので、何とか自分の欲しい釉薬は出来ないものかと「ある場所から掘り出した土石」を持参してわざわざ見えたのです。
K老人はかなりの年配にも似合わず、釉薬について熱心に質問され探究心旺盛で人の良さそうな感じでした。ですのでこちらも快く話しに乗り
「釉薬は土石だけでは作れないこと」「媒溶剤としての灰を作ることから始まり、
石灰(炭酸カルシウム)、バリウム、亜鉛華硅石、チタン、ベニガラ、酸化マンガン、酸化銅、酸化コバルト等色々な材料が必要だということ」
を説明しました。
その上で、どんな色のどんな釉薬が欲しいのか希望を聞いてこちらで試してみましょうと約束しました。
さて、K老人の持参された土石2~3種の中には使えない土石もありましたがその中で私がもっとも注目したのが「水打(みずたれ)粘土」(水酸化鉄、又は、がね水とも言う)でした。
長石灰、ワラ灰、水打粘土を同量加えて試作した結果、釉薬が作品を「綺麗な飴色」に焼き上げました。
K老人も大変気に入り喜ばれ、その後、毎月定期的にその水打粘土を運んで来て下さるようになりました。
K老人は地元の土地をよく知っていてその粘土がたくさん出る場所を探せたものと思います。
陶芸をやっている者の常識として敢えて私は水打粘土の出る場所を聞き出すことはいたしませんが、なかなかいい材料です。
その水打粘土を利用して黒、紺、空、柿色の釉薬の作り方、材料の配合方法などK老人に指導したのがきっかけで、その後定期的に持ってきて下さるようになったのです。
私のカイラギ作品の虫喰いなどはこの水打粘土が主原料になっています。
その土地で見つけ出した材料で誰にも真似のできない、その人その土地ならではの特産品を創り出すのが私の夢なのです。
ひょんなことからのK老人との出会い…今後もお互い大事にしていきたいものです。
期待に胸を躍らせる窯出し。
窯の蓋を開けると熱気が顔に吹きかかってきます。窯の中の作品が生き物のように”ピンピン”と音をたてています。
これは作品が冷たい外気に急に触れ、素地と釉薬の膨張の差が起きて貫入(かんにゅう)が出始めた時の音なのです。
窯出し後も、数日(長いときにはもっと)わたってその貫入音が続きます。初めて経験なさる方はびっくりされることと思います。
薩摩焼、栗田焼、相馬焼など亀裂がはいっていますが、この亀裂釉、柚子肌釉、カイラギ虫喰い…等、釉薬によって特殊な紋様となります。欠点転じて美点となす、と言ったところでしょうか。
この亀裂、貫入を創り出すのには実は様々の工夫があります。
第一に縮まない土を使用する、第二に釉薬を厚掛けする、ことですが、実際には、私の体験から申し上げると「耐火性が大きく、収縮の少ない素地」「ソーダ長石を釉薬に使用する」という点がポイントになると思います。
ちなみにカイラギ釉については、私自身も毎回苦労しています。幾度か試験焼を繰り返し確認していても、いざ本番(本焼)では結果は全滅という事もたびたびです。それだけに思い通りに焼けたときには最高の喜びを味わいますが次に「同じ釉薬を同じ条件」で焼成してもうまくいかず失敗する…この繰り返しです。そのたびに何故?原因は?と考え、いろいろと分析をしています。
そしてこれが私の一生涯の研究課題なのだ、とも思っています。
同時に、私の思いを込めた「カイラギ作品」を実際に購入したり使ってくださっているたくさんの方々からの感想は、本当に励みになります。
(いつもFAXで拝見しています。)
最後に今回は「陶芸初心者の方でも楽しめる亀裂釉」をご紹介しましょう。
家庭での使用済みの空ビンのガラス破片を使って皿に装飾を施す手法です。
ビール瓶の「茶」、酒ウィスキー瓶の「緑」「青」、その他の色のガラスを別々に割砕いておき、水平の皿に模様に合わせて置くだけです。
この場合、必ず「乳濁釉」をかけた上にガラスを置きます。
(ただし立体の作品の場合は流れるためにできません。)
1100度で溶けますので、普通の窯の下段でも綺麗に焼けます。一度、試験をしてみてはいかがでしょうか。
寒い冬は作陶する人にとって水が冷たくいやですが、また同じくこの夏の暑さもいやなものですね。
今朝は偶然午前2時に目が覚めましたので真夜中に仕事を始めましたが、朝の6時ごろまでに平常の1日分の仕事が効率よく出来ました。
静寂な仕事場での作業はちょっと寂しい気分にもなりますが、昼間の暑さから解放され涼しさの中で仕事に集中できることが何よりです。暑い時期は無理をしないで夜行性動物になることも必要かなーと思いました。
作陶(物作り)というのは「集中力」がないとなかなかいい作品ができません。雑念を払拭してロクロに向かい手を動かすことが肝要です。今朝の真夜中の作業はそういった意味でもそれなりの成果が得られたような気がします。
現在、できあがり直径が約30cmの大皿を作陶しています。
かける釉薬は今回考え出した「ユズ黒釉」に「ブルーの釉」の深い味わいのコントラストに仕上げたいと頭の中でその焼き上がりを思い描いています。
「ユズ黒釉」というのは、見た目には表面がざらざらに見えますが、実際は肌触りがとても滑らかで格調高い釉薬のひとつです。
またカイラギ釉と同系統のもので、材料は鹿児島県に産するものを使います。
作陶にあたっては、できるだけ地元の資源を活用して今後もいい作品を目指していきたいと思っています。
「かごしま県民交流センター」2Fロビーに啓蔵作品の「壷」が展示されています。
火山の噴出物が数千年にわたり風化したのがシラスで鹿児島県の半分はそのシラスによって覆われています。
無尽蔵の火山噴出物を利用していろいろな物が作り出され未利用資源が次々と新しい商品に生まれ変わりつつあります。
特にシラスに含まれるシラスバルーン物質が研磨剤として広く使われ油よごれの磨き粉から日本が誇る光学レンズの研磨まで一役買っているのです。
そればかりか水に浮くセメント製品建築用の外装-塗料 人工宝石等々….研究が進んで陶芸でも釉薬を作るのにシラスを利用しております。
カイラギ、ユズ肌釉は勿論のことどんな色釉でも作り出せます。比重が軽くキメが細かくシラス単品でも釉薬に利用でき使い易いのが何よりです。
一例をあげますと
乳濁釉は 「長石30+土灰30+ワラ灰40」 が基本ですが
シラス乳濁釉は 「シラス30+土灰20+ワラ灰40+骨灰10」 が良好です。
何故骨灰を入れるかというと、シラスの中に微量の黒浜(砂鉄)が入っているのでそのまま焼くと(1240度~1250度)黄味を帯びますが骨灰を入れることによってピンク色に発色させることができます。(ツヤ有り)
ツヤ消し釉の場合は 「シラス30+土灰30+カオリン30+硅石10」 で良いのですがより白く乳濁させたい場合には「亜鉛華」または「ジルコンチタン」などを4%くらい入れます。
溶材として「バリューム」「マグネシア」「亜鉛華」「石灰」等を変えることで発色が違ってきます。
釉薬の研究で試作品を作って比較しながら良いものを見つけ出している試行錯誤の毎日です。大変な作業ではありますが、新しい発見をするために没頭することは、充実した時間でもあります。
現在、めずらしい釉、カイラギ、虫喰い、ユズ肌等、納得できるサンプルは30種類ほどになりました。いつかこの釉薬を使った作品を発表したいと考えております。
鹿児島の地場産品には「黒」が本当に多い。「黒砂糖」「黒酢」「黒牛」「黒豚」「黒糖焼酎」「黒ごま」「大島紬の泥染の黒」と、いずれもよそに誇れる産品ばかりで、黒潮が県土を洗う鹿児島はとても豊かな海の色でもあり円熟した色でもあるような気がします。
そして伝統産業の焼き物の中にも「黒薩摩」「黒ヂョカ」をはじめとする多くの黒物があり、これらの釉薬も火山地帯から産出する資源から作り出されているのです。
「シラス」と呼ばれる「火山から噴出した火山灰火山れきが200万年以前に堆積した」ものは南九州全体に分布しています。
「シラス」とは多くの穴を持ったガラスという意味で、穴の大きさは1ミリの百万分の1から千分の1ほどで電子顕微鏡でしか見ることができません。
最近では、新資源として価値あるものに変えようとしています。
建材や塗料、除菌フィルター、血液のろ過材等々….
無尽蔵にあるシラスから陶芸用の釉薬も作れます。例えば白色のマットから緑、空(そら)、黒、赤、そば釉など。それらは、しっとりしたマット釉で、長く使用しなくても沈殿しにくい使い易い釉薬です。そして
実は私が研究しているカイラギ釉もこの材料がないと作れないのです。
この鹿児島の「自然の恵み」で名産の黒を作り出せたらと、これからも日々研究を続けていきたいと思っております。
一日中作陶を続けていると運動不足になり便秘がちになります。
先日病院でももらった便秘薬が「酸化マグネシア」でした。この薬は陶芸の釉薬でも使用され、黒色、紺色、紫色のマット(ツヤ消)釉の媒溶剤として混合すると綺麗な色が作れます。
またレントゲンを写す時に飲む「バリウム」も、緑色を作る時に石灰と合わせて使用すると黄緑色のきれいな色彩が得られます。同じく、皮膚病の塗り薬として使われる「亜鉛華」も空色の釉薬を作る時に必要な材料なのです。
そして釉薬の元になる長石を溶かす時に木灰、石灰、酸化マグネシア、酸化バリウム、塗り薬に使う亜鉛華、などを単味にまたは2,3種類混合することでいい釉薬を作ることができます。
普段私たちが何気なく飲んでいる薬が釉薬として使用できるなんて、面白いものですね。
私は、いろいろなものに興味をもって常にアンテナをはりめぐらせる…ことが大切だと思います。例えば病院の薬をもらう時に、薬品名に気をつけて見るというのも新しい発見の糸口になるかもしれません。
こうして色々な材料を使って試行錯誤しながら日夜努力して各人なりの釉薬を作るべきだと思います。
「人に教えてもらおう。説明して欲しい。」とか「(誰かが作った)釉薬を使わせてもらおう。」と簡単に考える前に、自分だけの釉薬を作り出すよう、がんばってみてください。
陶芸を始める方は、春から夏にかけて・・・というのが一番やり易いと思います。
冬は粘土が冷たくて乾きにくく、作品を作っても夜間に冷えるので何らかの方法で温めておかないといけません。もし凍らしてしまうと太陽が昇る頃にはせっかくの作品もくずれてしまいます。
特に大型の作品となると夜間の保護が大切で電気毛布で囲ったり、コタツの弱熱で暖めたりします。
粘土は摂氏18度前後であればバクテリアの繁殖が旺盛で粘り気もよく作り易いのですが気温が下がると粘土のバクテリアが死滅して作りにくくなります。
数年前の話ですが、運び込まれた粘土を土間の上に置き、凍らせないように毛布を掛けておき、春になってその粘土を取り出したところ、冬の間かぶせてあった毛布がボロボロになっていたことがあります。
その時、バクテリアのすごさを実感しました。温度と湿度があればバクテリアの繁殖も盛んになるのです。
春に開催される陶芸展に出品される場合には12月中の気温がさがらないうちに素焼きを済ませる心構えが必要です。1月や2月に作り出しては、遅れをとりあせるばかりで良いものは作れません。
やはり何をするにも「早め早めの取り掛かりと、準備を怠らないこと」が必要ということです。